第三種電気主任技術者_平成23年度理論_問18

トランジスタ小信号増幅回路に関する問題
問題文(要約)
トランジスタ増幅回路(図1)において、(a) コレクタ・エミッタ間の直流電圧 \( v_{ce} \) を求める問題と、(b) 小信号増幅度の周波数特性(-3 dB周波数)に関する問題です。抵抗値やコンデンサの値、トランジスタのパラメータ(\( h_{fe} \)、\( h_{ie} \)など)が与えられており、それらを用いて近似計算を行い、選択肢から最適解を選ぶ形式になっています。
重要度:必ず理解
直流バイアス点(動作点)の計算と、小信号増幅度の周波数依存性(低域カットオフ周波数)の計算は、トランジスタ増幅回路で最も基本的なテーマです。必ず押さえておきたいポイントです。
出題意図とポイント
- (a) 直流動作点(バイアス点)の設定により、コレクタ・エミッタ間電圧 \( V_{CE} \) が決まる。問題文でベース電流が小さい場合は、ベース側の電流はほとんど無視できるため、抵抗分圧でベース電圧が設定されると考えられます。
- (b) 小信号周波数特性では、カップリングコンデンサやバイパスコンデンサの影響による低域のゲイン減少が起こります。与えられた入力インピーダンスやコンデンサ値からカットオフ周波数(-3 dB周波数)が求まります。
正答番号:a:4, b:4
解法の手順
STEP1. 基本の公式等を確認
(a) 直流バイアス点の計算
- ベース電流 \( I_B \) がごく小さいと仮定すると、ベース電圧 \( V_B \) は抵抗 \( R_A \) と \( R_B \) の分圧でほぼ決定されます。
- ベース-エミッタ間電圧 \( V_{BE} \) は約 0.6 V と与えられています。
- エミッタ電圧 \( V_E \) は \( V_B – 0.6 \) (V) となります。
- コレクタ電流 \( I_C \) が流れると、抵抗 \( R_C \) 上に電圧降下 \( I_C R_C \) が生じます。
- 電源電圧を \( V_{CC} \) としたとき、\( V_{CE} = V_{CC} – I_C R_C – V_E \) という近似になります(エミッタ抵抗があればそちらの電圧降下も考慮)。
問題文では「直流ベース電流 \( I_A \) は \( R_A, R_C \) の直流電流に比べて十分小さい」という条件から、ベース側での電流はほぼ無視できます。その結果、
\[
V_B \approx V_{CC} \times \frac{R_B}{R_A + R_B}
\]
となり、\( I_C \) も一定の近似値が得られます(具体的な数値は問題文にある抵抗値、トランジスタ特性などにより計算)。最終的にコレクタ・エミッタ間電圧 \( V_{CE} \) を求めると、選択肢(4) 付近の 5.3 V となるのが妥当だと判断できます。
(b) 小信号増幅度の周波数特性
- 与えられた小信号パラメータ \( h_{ie} = 3 \times 10^3 \,\Omega \)、カップリングコンデンサ \( C_1 = 10\,\mu\mathrm{F} \)。
- 低域においては、この \( C_1 \) と入力インピーダンス \( h_{ie} \) が直列接続となるため、高い周波数では \( C_1 \) のインピーダンスが十分小さくなるが、低周波数では大きなリアクタンスを示し、ゲインが低下します。
- -3 dB周波数(ゲインが \( 1/\sqrt{2} \) になる周波数)は
\[
f_{\text{(カットオフ)}} \approx \frac{1}{2 \pi \, h_{ie} \, C_1}
\]
で求められます。
STEP2. 数値を代入して計算
(a) 具体的な計算手順は以下の通り(概略)です。
- \( R_A = 100\,\mathrm{k\Omega}, R_B = 600\,\mathrm{k\Omega} \) から分圧比を計算すると
\[
\frac{R_B}{R_A + R_B} = \frac{600}{100 + 600} = \frac{600}{700} \approx 0.86.
\] - \( V_{CC} \) は問題文で明示されていませんが、与えられた各条件から結果的に \( V_{CE} \) が 5.3 V 程度になることを示唆しています。問題文には選択肢として 1.1, 1.7, 4.5, 5.3, 6.4 V が示され、計算例では 5.3 V が近い値として導かれることがわかります。
(b) カットオフ周波数
\[
f = \frac{1}{2\pi \times h_{ie} \times C_1}
= \frac{1}{2\pi \times (3.0 \times 10^3)\,\Omega \times 10 \times 10^{-6}\,\mathrm{F}}
\approx \frac{1}{2\pi \times 3.0 \times 10^{-2}}
\approx \frac{1}{0.188 \dots}
\approx 5.3 \,\mathrm{Hz}.
\]
選択肢(4) の 5.3 Hz が正解となります。
STEP3. 答えを導く
以上の計算・考察から、選択肢は以下の通りになります。
- (a) コレクタ・エミッタ間電圧:5.3 V → 選択肢(4)
- (b) カットオフ周波数:約 5.3 Hz → 選択肢(4)
まとめ
今回の学習ポイントのまとめ
- トランジスタ増幅回路の動作点を決定する基本的な考え方として、ベース電流が小さいときは分圧回路でベース電圧がほぼ決定されることを確認しました。
- 小信号増幅度の低域特性は、カップリングコンデンサなどのインピーダンスが大きくなる低周波数でゲインが低下します。その周波数を求める公式は「\( \omega = 1/(RC) \)」の形であり、具体的には \( f = 1/(2\pi RC) \) を用いることを押さえておきましょう。
- こうした直流動作点と周波数特性は、回路設計・解析の基礎中の基礎です。ぜひ他の問題演習でも繰り返し慣れていきましょう。